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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 中国「反外国制裁法」の実施に関する規定

中国「反外国制裁法」の実施に関する規定

 2025-04-3054

中国では、外国による中国又は中国の公民・組織に対する差別的な制限に対抗措置を採るための法的根拠として、「反外国制裁法」(2021610日公布、同日施行)が制定されている。また、「対外関係法」(2023628日公布、71日施行)では、国際法及び国際関係の基本準則に違反し、中国の主権・安全・発展の利益を脅かす行為に対し、中国は相応の報復・制限措置を講じることができ、国務院が必要な行政法規の制定等を行った上で、かかる報復・制限措置を確定・実施する旨が規定されている。

これを受けて、国務院は2025323日に「『中国反外国制裁法』の実施に関する規定」(国務院令第803号、以下「実施規定」という。)を公布し、実施規定は同日付で施行された。実施規定は計22条からなり、反外国制裁法の適用範囲や対抗措置の内容をより具体化し、法執行体制の整備や救済措置などを規定した。

本稿では、実施規定の特に重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は実施規定の当該条文を指すものとする。

対抗措置の具体化

「反外国制裁法」では、中国の公民・組織に対する差別的な措置を制定・決定・実施することについて、直接又は間接に参加する外国個人や組織を「対抗措置リスト」に掲載することができ、当該リストに記載された者に対し、①入国制限、②中国国内にある動産・不動産その他の財産の差押えや没収、③中国国内の個人・組織と取引や提携などの活動を行うことの禁止・制限、④その他必要な措置を執ることができると規定されている。

かかる対抗措置の対象となる財産の種類や取引分野の具体的範囲は明確ではなかったが、実施規定では、以下のような具体化が図られた(第7条~第9条)。

1.「その他の財産」には、現金、手形、銀行預金、有価証券、ファンド持分、株式、知的財産権、売掛金などが含まれる(第7条)。

2.「取引や提携」が禁止・制限する分野には、教育、科学技術、法律サービス、環境保護、経済貿易、文化、観光、衛生、スポーツ分野が含まれる(第8条)。

3.「その他必要な措置」には、中国に関する輸出入に従事することを禁止又は制限する措置、中国国内における投資を禁止する措置、リストに記載された者に向けた物品の輸出を禁止する措置、データや個人情報の提供を禁止又は制限する措置、中国国内における就労許可・滞在・在留資格の取消し又は制限する措置、罰金措置などが含まれる(第9条)。

対抗措置の具体化により、生じ得るリスクが一定程度予測可能となった。外国企業にとっては、科学技術等の分野における業務提携の審査が厳格化されたり、データ移転が制限されたりする可能性があるため、コンプライアンス体制の強化が求められる。

対抗措置プロセスの明確化

「反外国制裁法」第9条では、対抗措置リストや対抗措置の内容の確立・一時停止・変更又は取消しは、外交部又は国務院関連部門が命じて公布するものとされている。しかし、かかる措置を命じるまでの調査手続や救済措置は明確になっていなかった

実施規定は、国務院の関係部門が調査及び対外協議を行う権限を有する旨を規定し、対抗措置を執るまでに、以下のプロセスを経ることを明らかにした。

1.対抗措置を決定する際に、対抗措置の適用対象、具体的な措置、施行日などを明確にしなければならない(第4条)。

2.対抗措置の決定、一時停止・変更又は取消しに関する決定は、国務院関連部門の公式サイトで公表し、随時更新する(第11条)。

3.対抗措置に関する決定が公表された後、対象者は、措置の一時停止・変更・取消しを申請でき、申請時には行為の是正や行為の結果を除去するための措置等に関する事実と理由を提出しなければならない(第14条)。

4.国務院関連部門は、対抗措置の執行状況と効果について評価を行うことができ、その評価結果又は第14条により提出された書類に対する審査結果に基づき、対抗措置の一時停止・変更・取消しを調整することができる(第15条)。

対抗措置プロセスの明確化により、一定の情報が公表されるため、中国ビジネスに関与する外国企業は、「対抗措置リスト」の更新を定期的にチェックし、必要に応じてサプライチェーンや提携関係の見直しを検討すべきであろう。

対抗措置の実施義務の強化

反外国制裁法は、外国企業又は個人への対抗措置が決定された場合、中国国内の組織・個人は、当該対抗措置を実行しなければならないこと、いかなる組織及び個人も、外国国家が中国の公民・組織に対して講じる差別的な制限措置の実行に協力してはならないことを定めており、かかる義務に違反した場合、法的責任を負うことを定めている(反外国制裁法第11条、第12条)。

実施規定は、かかる法的責任の内容を明確化した規定を設けており、これにより実施義務が強化されたと考えることができる。

1.国務院の関係部門は、対抗措置を法令に従って執行しない者に対し、是正を命じ、政府調達・入札参加及び関連物品・技術の輸出入若しくは国際サービス貿易等を禁止又は制限し、海外とのデータ・個人情報の授受を禁止又は制限し、出国・国内滞在・在留を禁止又は制限する等の措置を講ずる権限を有する(第13条)。

2.国務院の関係部門は、中国の公民・組織への外国の差別的制限措置を執行又は支援した者に対し、聴取、是正命令、対応処理措置を講ずる権限を有する(第17条)。

3.中国の公民・組織は、差別的な措置により被った損失について、中国の裁判所に損害賠償請求を求めて提訴することができる(第18条)。

おわりに

実施規定には、本稿で触れた以外にも、法律事務所等の専門機関に対し、反外国制裁に関するリーガルサービス(例えば、リスク管理の支援、訴訟代理、公証手続の代行等)の提供を奨励すること(第20条)、司法行政部門が中国の法律及び国際条約に基づき対抗措置の実施を調整すること(第21条)等が定められている。

また、実施規定は、外国国家・組織又は個人が、訴訟等の方法により中国の主権・安全・発展の利益を脅かす場合、国務院の関係部門は、訴訟参加や判決執行等に関与した当該外国主体及び関連組織・個人を「対抗措置リスト」に掲載した上で、かかる対象者に対抗措置を講じたり、その財産に強制執行やその他措置を講じたりする権限を有するものとしており(第19条)、強い姿勢を示している。

さらに、実施規定は、外国による中国組織・公民への制裁濫用やロング・アーム管轄に対する対抗措置の実施を具体化しており、広い適用範囲となる可能性がある。実施規定の施行により、中国ビジネスに関与する外国企業の経済活動に影響が生じる可能性があるため、実務的な運用動向を注視する必要がある。


 


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